大人の眼活
加齢による黄斑変性症は、高齢者の100人に1人程度がかかる病気と言われてきましたが、近年とても増えてきています。
患者数が急増していること自体も問題ですが、この病気が眼科の分野で特に問題視されている理由は、失明のリスクが高いからです。失明する恐れがある病気には緑内障や糖尿病網膜症などもありますが、罹患者が失明する割合が最も高いのが、この加齢黄斑変性症なのです。
加齢による黄斑変性症対策
黄斑変性症の病態と症状
黄斑変性症はその名の通り、黄斑が変性していく病気です。黄斑とは網膜の中心部分でとても大事なところです。下図の様に眼球は厚い3層の膜で包まれています。それは外側から強膜・脈絡膜・網膜です。一番内側の網膜は神経線維が網目のように張り巡らされています。人がものを見るときは景色が網膜に映って、その映像が脳に伝わっているのです。
その「網膜の中心にあたる部分」を特に黄斑(おうはん)と呼んでいます。この黄斑が右図のように変性していく病態が黄斑変性症です。
初期の委縮型からより深刻な滲出型へと移行すると、網膜と脈絡膜との間で体液や血液が漏出するために、黄斑下部に水膨れ状のポケットが発生して、このように形が変わってしまいます。
黄斑変性症が進行するにつれて、下図のように視野は歪み、所々に暗点が現れます。「周りは見えるのに、見ようとしたところが見えにくい」とか「歪んで見える」「色が薄く見える」「黒や灰色の影が邪魔をして、見えない部分がある」といった表現がよく聞かれます。
黄斑変性症の原因
なぜこのように黄斑が変形するのでしょうか?黄斑は先述したように網膜の一部です。網膜は、下図Aのように10層からなっています。細胞内では視細胞がまず初めに光を感じて、数種類の細胞がその映像を順番に脳に伝えていくような構造になっています。
黄斑は精細にものを見ることが優先されるので、光受容体が最も多く集中し、また視細胞以外の細胞は少し周りの方にずれています。そのため、下図Bの写真にあるように、黄斑部では網膜が6層しかなく、薄くなっています。
- A
- B
網膜は神経細胞の集まりですから、張り巡らされた毛細血管によって養われています。しかし老化などにより、血液や体液の流れが悪くなると、酸欠や栄養不足、そして老廃物の蓄積が起こるので、血管はバイパスを作ります。それが「新生血管」です。
この新生血管は急造で構造的にもろいため、行き場を失った水分が漏れ出たり、出血することがあります。そしてだんだんと黄斑本来の構造が崩れていくのです。(↓下図①②参考)
①網膜と脈絡膜の間で、毛細血管の血行障害が続き、血漿などが漏れ出ています。血漿が漏れ続けて網膜に浮腫ができてくると、ぼんやり歪んだ感じに見えてきます。
さらに浮腫がひどくなると網膜が広範囲にはがれてしまいます。ここまでなると「黄斑浮腫」と言って、失明の確率がとても高くなります。
- 1
- 2
黄斑変性症の簡単な検査法
視界のゆがみはアムスラーグリッドと呼ばれる格子図を使った簡単な検査で発見できます。網膜専門医はこれを用い、暗点や視界のゆがみ、ぼやけや暗く見える部分、欠損して見える部分、線がゆがんだりとぎれたりして見える部分がないかをチェックします。
アムスラーグリッドを正しく使用する事により、黄斑下部に体液が少しだけ入り込んでいる場合の視力のわずかな変化も正確に捉える事ができます。
アムスラーグリッドは自宅で使用する事も出来ます。ご自分で検査を行う場合、以下の手順に従って下さい。
老眼鏡を普段から使用している場合には、老眼鏡をかけましょう。遠近両用メガネをかけている場合には、下の部分を使用しましょう。
アムスラーグリッドを目と同じ高さで壁に固定し、見えやすい距離に立ちます。
片目を隠し、アムスラーグリッドの真ん中の点を見ます。
初めて検査を行う際、グレーに見える部分や、ぼやけている部分、見えない部分、ゆがんで見える部分に印をつけます。
定期的にグリッドを見るようにします。
新しくゆがんで見える箇所が出来たりした場合には、ただちに網膜専門医に連絡し、診察してもらいましょう。新たな血管新生による出血や瘢痕組織の形成、不可逆的な視力低下のリスクを避けるためには早急な診察と対応が必要です。
病院での処置
加齢黄斑変性症は、初期の委縮型と、より深刻な滲出(しんしゅつ)型の2段階があります。血行不良などによって栄養が枯渇し、老廃物が蓄積した網膜が、弾力を失い委縮してしまう「委縮型」の加齢黄斑変性症に対しては、現代医学的に有効な処置はありません。
一方、「委縮型」から発展した「滲出型」には、レーザー治療、薬物療法、光線力学療法の3つの処置法があります。
●レーザー治療は、新生血管が中心窩から離れている場合に限って行われ、レーザーを照射することによって新生血管を焼きつぶします。欠点は、正常な網膜も焼きつぶされるため、その部分が欠損し、視野の一部が欠けてしまうことです。
●薬物療法は、新生血管が成長するのに重要な働きを持っている物質の働きを抑える作用のある薬を目に注射します。黄斑部の変性を止める効果があり、早期に行えば、視力低下に歯止めをかけることができます。視力があまり低下していない場合にも行えるのが利点です。 しかし副作用として、まれにですが、一時的に眼圧が低下したり、脳卒中を起こしたりすることがあります。
●光線力学療法は、新生血管に集まりやすい性質を持つ薬を利用して行う治療法です。この薬を腕の静脈に注射してからその後に非常に弱いレーザーを新生血管に照射します。それによって、新生血管を詰まらせます。リスクとして、視力がまだ比較的良くて、症状は歪みだけという人が受けた場合、治療後に視力が低下することがあります。
病態を改善する漢方的アプローチ
以上のように西洋医学ではレーザーで出血部分や剥離部分を焼いて、漏れを止めたり、注射剤で炎症を止めたりする応急処置をしてはくれますが、それで治っているわけではありません。応急処置としては助けになりますが、いずれも治癒を目的とした治療ではありませんし、問題はどの治療も再発するということです。やはり根本的に眼の周囲の環境から改善していく必要があります。
血液や体液の質や流れを良くすることで、 新生血管の出血や増殖が止まり、症状を改善することが可能です。また老化による網膜組織の潤い不足や、栄養不足を早期に改善していけば、萎縮型のうちにもとに戻すことも可能です。応急処置も大事ですが、漢方的なアプローチで根本原因を治していくことが先決なのです。
体質を解決する栄養学的アプローチ
加齢黄斑変性症は、日本ではひと昔前にはまれにしか見られなかった病気です。1998年から2007年の追跡調査の結果、9年間で新たに黄斑変性症を発祥した患者さんの生活習慣を調査することによって、この病気の危険因子が明らかになりました。それによると、加齢や喫煙はさることながら、食生活の欧米化も関与しています。
欧米の食生活の特徴は、甘いもの、脂っこい物、乳製品や肉や摂取が多く、しかも大食いであることです。加齢黄斑変性症の増加には、食生活の欧米化と共に、食べすぎも関係しています。食べすぎは便秘をもたらし血液の質を低下させます。加齢黄斑変性症の患者さんは多くは便秘の傾向があります。
また、活性酸素の影響もあります。視力にもっとも関係している黄班は体の中でも最も代謝が活発な組織のひとつで、それだけに活発酸素も最も大量に作られるところです。そのため、血液循環への依存度が高く、抗酸化物質や微量ミネラルを非常に必要とするのです。
黄斑変性症は、食事、運動、睡眠、ストレス、喫煙などの生活習慣によって起こる可能性が高い病気ですので、食事療法(和食中心、小食など)を中心に生活習慣を見直し、抗酸化作用があるビタミン、ミネラル、フラボノイド類など栄養素を十分に摂って、不足させないことが大事です。
そのほかに気を付ける生活習慣
加齢黄斑変性症が滲出型に進行して出血や浮腫が頻繁に起こるようになると、これは老化というよりも、崩壊といってよい状態です。病院で応急処置を施してもらい当面はしのいだとしても、治すには患者本人の努力が必要不可欠です。
現代の環境は過敏なストレス、環境汚染化学物質、紫外線の増大など、活性酸素が体内で過剰に作られやすい要因が多く、加齢黄斑変性症の急増にはこうしたことも関係していると考えられています。
紫外線については夏の太陽に強く当たった人では発症が2倍に増え、一方、帽子やサングラスを着用した人では発症の度合が40%低下したという報告があります。黄斑変性症の人も白内障の人と同様に、紫外線やパソコンなどからのブルーライトを避ける必要があります。
喫煙は網膜の血液循環を13%も低下させ、抗酸化物質や微量ミネラルを多量に消費させます。喫煙習慣のある人は、非喫煙者の2.5倍も発症率が高く、発症の平均年齢も非喫煙者の71歳に対し喫煙者のそれは平均して64歳と、7歳も若くなっています。